ハートフルコーチの泣き笑い日記

日々の発見やつぶやきなど。

夫婦の距離


いよいよ今年も残り少なくなってきましたね。東京の佐藤です。
クリスマスも終わって、新年に向けて準備を整えるような気ぜわしさの中にも、厳かな静寂さを感じるこの時期の独特な雰囲気がとても好きです。

島さんのお話を読んで、親が想像する以上に、子どもは自分の人生に、その子なりにしっかり向き合っていることを改めて感じました。同時に親の自分も成長していかないと、しなやかに生きていく子どもに置いてかれてしまいますよね(苦笑)。島さんのような、葛藤しながらも全てを受け入れられるような、柔軟性のある親になれたらいいなぁと思います。

さて、先日、息子がサッカーの合宿で家を留守したのですが、これが意外にも夫との関係を見直すきっかけになりました。
息子は合宿に行く前の日は、それは憂鬱そうで、「ママと離れたくない」と弱音ばかり吐いてばかりいましたが、当日は観念して出かけていきました。
私は久しぶりに味わう開放感に浸りながら、時間を気にせずに仕事に没頭。すっかり日が沈み部屋が薄墨色に包まれ、あたりの静けさが際立ち始めると、不意に息子の顔が浮かびました。

今頃は、何をしているかな…

急に息子が恋しくなり、彼のいない部屋がなんだか寒々しい感じ。夫が帰宅すると、今度は彼と二人だけで過ごす時間がなんとも落ち着きません。思えば夫婦だけの時間はあまりにも久しぶりでした。夫との日常会話といえば息子のことに終始し、さながら業務連絡のよう。子どもが生まれる以前のお互いが何を話してどう過ごしていたのか、思い出せなくなっていました。

夕飯に、息子が苦手で家族の食卓から遠ざかっていた夫婦の好物、キムチ鍋を囲むも、私は何となく居心地が悪いまま。息子の話しで賑やかないつもの食卓とは打って変わって、まるでお通夜のよう。元々夫はどちらかというと寡黙なので、いつもの彼と何も変わりないことはわかっていました。

けれども静まりかえる部屋に、グツグツと煮える鍋の音だけが大きくなり、湯気の向こうに座る夫の顔が霞み、静寂がいっそう濃く深く、私たち夫婦の距離を遠くしているみたいでした。
「なんかさ、静かすぎない?」
たまらず私が言うと、
「そう?」
彼は全く意に介していません。
「ねえ…私たちって、子どものこと以外に、どんなことを話してきたっけ?」
「……」
「老後って、こんな感じになるのかな…」

私は会話もなく過ごす老後を想像して、暗澹とした気分になりました。
同時にいつの間にか子どもの存在に頼りすぎて、夫と向き合うのをやめてしまっていた自分に気づきました。
「老後は会話がないことにも慣れて、それが日常になるんじゃない?」
「…そんな日常は退屈すぎて、早死にしちゃうよ」
すると彼は面白かったのか、歯を見せて笑いました。
ほんのちょっとだけ、食卓が色づいたような気がしました。

翌日は休日だったので、二人でショッピングに出かけました。
街はクリスマス一色。とても華やかな雰囲気の中を歩くうちに、浮き足立つような気分になりました。
夫はセレクトショップで好みのコートを見つけると、早速試着してみることにしました。店員さんに勧められるままに、他にも様々なコートを着ては鏡に映る自分を眺める彼。その表情は活き活きしていて、とても楽しそうでした。
「どっちが似合ってる?」
「水色の方があなたらしいよ」
そう答えた瞬間、すっかり忘れていた独身の頃が鮮やかに蘇りました。

彼とよく、こんな風に買い物を楽しんだな…

彼と過ごしたあったかい時間は、今も変わることなく、ちゃんとここにあることに少しホッとしました。
息子が産まれて以来、私たちは家庭では父母としての役割を懸命に生きてきたけれど、たまにはお互いがその役割を休んでみると、ふたりの間に新しい風が運ばれてくるような感じがしました。

夫婦ふたりだけの時間も、悪くないね…

夫にそう言ってみようかと口を開きかけて、慌てて言葉を飲み込む私。照れくさくて、まだまだ素直に言えるようになるには時間がかかりそうですが、この先もそれなりに楽しく過ごしている私たちの未来図が、うっすらと見えるような気がしました。

その夜、息子が無事帰宅し、夫婦の束の間の時間は終了。いつもの賑やかな空気が我が家に戻ってきました。
「合宿でママのことなんて、ぜーんぜん思い出さなかったよ!」
息子に得意げに言われて、思わず失笑。
「ママだって、ぜーんぜん思い出さなかったもんね〜」
本当は時計を見るたびに息子を思っていたけれど、精一杯強がって言い返しました。
こうして子どもの成長とともに親子、そして夫婦の距離感が少しずつ変わっていくのを肌で感じるほど、何気ない日々が、いっそう愛おしく思えるのでした。

次回は愛知の児島さんです。
皆様、良いお年をお迎えください。

東京都/佐藤英子 








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