ハートフルコーチの泣き笑い日記

日々の発見やつぶやきなど。

ありがとう


こんにちは。東京の佐藤です。
窓を開けると、どこからともなく金木犀の甘い香りが部屋を包み、耳に心地よい虫の音とともに、秋の深まりを静かに教えてくれます。この時期はいつにも増して、自分も自然の営みの中に生かされていることを、強く感じさせられます。

島さん親子の絆の深さは、これまでの様々な親子の物語に、そのつど向き合い、丁寧に紡いでこられた賜物なのでしょう。私もいくつになっても、お互いを思いやれる家族を築いていきたいと思いました。
そのための修業(笑)はまだ始まったばかりですが、息子とのドタバタした日常の中で、不意にキラキラした宝物に出会うことがあります。それはなにげない日々が、たまらなく愛おしくなる瞬間です。

その日もそうでした。
珍しく息子が外食したいと言ってきたので、近所のファミリーレストランで夕食をとることにしました。私たちは4人用のボックス席に向かい合って座り、料理を半分くらい食べ終えた頃、私の背後側のボックス席に父と息子の親子が座りました。ちらっと見た感じでは子どもはまだ幼く、3歳くらいのようでした。

お父さんは店員さんに注文を伝え終えると、しきりに息子に「ありがとうは?」と何度も繰り返し言って聞かせていました。
「ねえ◯◯君、ありがとうは?…ちゃんといえるよね…ありがとうは?」
どうやら玩具をプレゼントしてくれた店員さんに、お礼を言いなさいと息子に促しているようなのです。
幸いお父さんの声の調子に怒気はないものの、「ありがとうは?」と根気良すぎるというか、諦めを知らないというか、何度も息子に繰り返している様子に、必死さが伺えました。
きっと子どもは玩具に夢中になって、それどころではないのでしょう。店員さんも「もういいですから…」と微笑みながらも、その場を立ち去れずに、困っているのが伝わってきました。

若いお父さんの一生懸命な気持ちもわかるけど、まだ幼稚園の年少さんくらいじゃ、言えないよね…

その親子に、かつての自分が重なりました。
私も息子がまだ幼い頃に、「ありがとう」は時に命の次に大事な言葉、というほどの勢いで、「誰かに何かをしてもらったら、必ず言いなさい!」と強制していた頃がありました。

でも息子は私が横で「こういう時なんて言うの?」と促さないと、きちんと言えませんでした。何度言ってもそうだったので、「どうして言えないの!」と感情的に怒ったこともたくさんありました。
当時の私は、感謝をきちんと表現できない息子の将来を憂う気持ちと、しつけができない親だと見られたら恥だ、という思いがないまぜになって、頑なになっていました。

あの頃の息子はまだ幼かったし、思いは胸にあるけれど言葉が出て来なかっただけだったのだろう。彼にはかわいそうなことをしてしまったな…

苦い思いとともに、不意に数日前の夜の出来事がよみがえりました。
その日は音読の宿題があるにもかかわらず、教科書をなくしてしまったと焦って部屋中を探して回る息子に、私は珍しく手を差し伸べました。
いつもなら一緒に探したりはしませんが、なくして時間が経っていることを打ち明けてきたので、さすがに息子ひとりで探すのは難しいと感じたからでした。

結果、私が本棚に収まっている教科書を見つけ出して、息子は無事音読の宿題を終えることができました。その夜、ベッドで息子とで並んで眠りにつこうとした時でした。
「ねえ、ママ?」
「うん?」
「…今日は、ほんとうにどうもありがとう」
そう言って息子はギュっと手を握ってきました。私は突然のことで、彼が何について感謝しているのか、瞬時に気がつきませんでした。
「教科書探してくれて……僕、すごく嬉しかった」
照明を落とした部屋で耳にした息子の声には、心から安堵し感謝する、彼の思いがあふれていました。

こんなにも素直に、しかも親にお礼が言えるって、スゴい!
私は返す言葉をなくすほど、心が動かされました。
幼い頃の私は、親に謝ることはもちろん、お礼さえも照れくささが邪魔をして言えない子どもでした。だからなおさら息子の素直さが眩しく見えました。
我が子の穢れのなさに、人間の崇高なものに触れたような感じがしたのです。

この子は、大丈夫!
同時に息子の未来を、確信した瞬間でもありました。

私は改めて目の前で料理を夢中に頬張る息子が、いつの間にか親の思案をよそに、しなやかに成長していることに頼もしさを感じました。
そしてなぜだか私の後ろに座る、子育てに一生懸命な父親と、まだ「ありがとう」が言えない小さな男の子の未来も大丈夫!と、胸があったかくなりました。

それはきっと、あの夜の息子の「ありがとう」が、気づかせてくれたのだろうと思います。

息子よ、本当にありがとう。

次回は愛知の児島さんです。
今度はどんなお話しを書いてくださるのかな。楽しみにしています!

東京都/佐藤英子 







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