ハートフルコーチの泣き笑い日記

日々の発見やつぶやきなど。

失くし物大臣


夏休みも終わり、ようやく静かな日常が戻ってきたようで嬉しい佐藤です。新学期が始まり、元気に通学し始めた息子の姿に、ホッとしています。

島さんの純粋で優しさに溢れたサポートに感動しました。私はつい先日、息子の失くし物のことで、サポートの難しさを感じたばかりだったので、相手を信頼し、見守ることの奥深さを、教えられたような気がしました。

息子は自他共認める「失くし物大臣」です。我が家では彼が物を失くして帰ってきた時に、そう呼んでいます。
これまでに失くした物は数知れず。鉛筆や消しゴムなどの文房具類はしょっちゅう、給食袋や補助バッグなんて可愛いもの。絵の具セットや図工の授業で着るアート着に始まり、制服のベスト、新調したばかりのメガネなど、あげたらきりがないくらいです。
それでも3年生になってからはようやく自覚も芽生えて、だいぶ減ってはきましたが、持ち物や、することが多く忙しくもなってきて、たまに失くし物大臣が復活します。

さっそく先日がそうでした。
台風が接近していて悪天候だったのですが、夏休みも終わりに近づき、家にじっとしているのももったいないということで、息子と二人で映画に出かけました。
家を出る時に、息子がパスケースに入れた定期券を、そのまま半ズポンのポケットに入れるのを見て、私は一瞬嫌な予感がして声をかけました。
「落ちそうだよ。カバンに入れて持った方がいいんじゃない?」
「大丈夫。ほら、ポケットは深いから」
そう言って息子はパスケースがポケットにすっぽり収まる様子を私に見せました。私は自分のバッグに入れて持ってあげた方が安全かな、と頭をよぎりましたが、あえて口にするのをやめました。
‥‥‥最近は自分の持ち物を意識できるようになってきたし大丈夫だろう。
私は息子を信じました。

「ママ、パスケースがない!」
背中越しに息子の声を聞いたのは、映画を見終えて、暴風雨の中、なんとか駅にたどり着いた時でした。
振り向くと顔を硬直させてポケットを探っている息子がいました。
瞬間、出がけにもっとしつこく声かけをすればよかったという後悔と、息子の不甲斐なさに猛烈な怒りがこみ上げました。
「だから言ったじゃない、ポケットじゃ危ないって!!どこで落としたの!」
声を荒げてしまった後、次にやるべきことは何なのかを息子に考えさせることが先なのに、冷静に対応できないでいる自分が嫌になりました。
これまでもそうでした。私は息子から物を失くしたと聞かされると、まるで自分が被害者になったような、とても鬱々とした気分になり、それが猛烈な怒りに変わるのです。

これは私の勝手な思い込みなのですが、親が子どもに与える物には、いろんな思いが込められていると信じてきました。幼い頃に母に作ってもらった様々な巾着袋や、ねだって買ってもらった物など、そこには両親の気持ちがこもっているように感じてきました。
子どものために親が吟味する物の一つひとつの先に、親は子どもの笑顔を見ていると思うのです。だからなおさら、いとも簡単に物を失くす息子に対して、感情的になってしまうのでした。

「で、どうするよ」
私はできる限り怒りを抑えて息子に聞きました。同時に頭の中で息子がどこでパスケースを落としたのか、これまでの行動を振り返りました。
彼は呆然としていて、言葉が出ない様子でした。
「ねえ、ぼっとしないで考えて!どこに落としたのかなんとなくわかる?最後にポケットにあったのはいつ?」
私は、映画館で座っている時にポケットから滑り落ちたにちがいないと確信して、息子に映画館に戻ろうと言いました。
できれば息子にそれを気づかせたかったのですが、急いでパスケースを探さなければならないという焦る気持ちと、感情的だったこともあって、息子の答えを待てませんでした。
暴風雨の中をもと来た道を走りながら、私は「あなたが失くしたんだから、映画館の人に自分で話しなさい」ときつく言うと、息子は硬い表情のまま黙っていました。

息子は映画館のスタッフに失くし物を探して欲しい旨を話しました。敬語で冷静に説明しているのを、私は少し離れたところで聞いていてホッとしました。
次回の上映後にパスケースの有無を電話で連絡をもらうことにして、私たちは帰路につきました。
電車に揺られてしばらくすると息子が口を開きました。
「ごめんなさい」
小さな声で泣きそうでした。故意に失くしたわけでもないのに、私は謝られたことに戸惑いました。それよりも今後、物を紛失しないようするにはどうしたらいいのか、彼なりの考えを聞きたいと思いました。

でも私に怒られて、きっと彼の頭の中はパニックになって、次に何をどうしたらいいのか判断できなかったのでしょう。私は感情的になった自分を反省しました。
「ママも怒ってごめん。なんかね、またやったか‥‥と、ガッカリしちゃってさ。でもさっき映画館の人にちゃんと説明していたあなたを見て安心した」
「‥‥見つかるといいな」
息子もようやく落ち着いてきたので、彼に聞いてみました。
「で、次からは、定期券持って出かける時は、どうしたらいいかな」
「カバンの中に入れて持ち運ぶことにする。それか紐につないでベルト通しに結んでおく。あと席を立ったりする時は、周りをちゃんと確認する」
「そうだね。これからはそうしよう」
「‥‥せめてパスケースだけでも戻ってきて欲しいな」
定期券を入れたパスケースは、どうしても欲しいとしつこくねだられた末に購入したものでした。これまで失くし物をしても、すぐに諦めてケロっとしていた息子でも、お気に入りのものは違うようでした。

夕食後に映画館から、パスケースの落し物は見当たらなかったとの電話がありました。息子のがっくりと肩を落とした様子に、私も残念でなりませんでした。
‥‥あの時、息子を信頼しないで、もっと口うるさく言っていたら結果は違ったのだろうか‥‥出先で「パスケースはポッケにある?」と、何度も声かけをすればよかった。
思い返すほどに、息子に何のサポートもできなかった自分を悔みました。

それから数日後、夫の職場に警察から電話がありました。息子のパスケースを預かっているとの連絡でした。
私たちは嬉しさのあまり、二人で抱き合って喜びました。そして警察に届けてくださった方に、心の底から感謝したのでした。

幸せな結果で終わった紛失騒動ですが、この経験で私は、息子をつき離して試すのではなく、もっと同じ目線で寄り添える親になりたいと痛感しました。それこそが息子の主体性を育み、彼らしく生きるためのサポートなのだろうと思います。

それでは愛知の児島さん、私からの最後のバトンをお渡しします。
お話、楽しみにしてます!

東京都/佐藤英子 





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