ハートフルコーチの泣き笑い日記

日々の発見やつぶやきなど。

落ちていた腕時計


茶畑・里芋畑に囲まれ、空気の乾きが厳しい埼玉の田中です。
長野さんの「子供をダメでいっぱいにするところでした」が響きました。
私もこの頃、ダメ出しが多くて息子達の自己肯定感を凍らせていたかもしれません。トゲトゲの私の心がゆっくり溶けていくのを感じました。

私の通勤での出来事です。

初冬の朝、通勤のため歩いて駅へ向かう途中、黒い小さな塊が目に入ってきました。よく見るとそれは黒い腕時計、長男が持っているのと似たスポーツタイプの腕時計です。
駅前ロータリーの先を急ぐ人々の間にぽつんと、それはありました。
目に留めながらも、今来る電車には乗らないと遅刻しちゃう…交番へは戻らないと行けないし…誰か拾って届けてくれる人いるかなぁ…と通り過ぎてしまいました。

電車に乗ってからもなんだか気になるあの腕時計。持ち主はどんな人だろう…高校生?大学生?男の子?それとも女の子?

〜そういえば、小学6年だった長男も腕時計を落としたことあったなぁ〜

ちょっと背伸びした大人仕様のアウトドアメーカーの腕時計、出掛ける時はいつも身に付けていたお気に入りを、長男は外出先で失くしてしまいます。一緒にいた仲間達の手も借りて探し回りますが結局見つかりませんでした。
帰宅した長男が泣きながら、外してちゃんとバックに入れたこと、一生懸命探したこと、立ち寄ったお店には見つけたら連絡をお願いしてきたことを話してくれました。

正しくあることが一番大切で真面目を絵に描いたような長男が物をなくすこと自体あまりなく、彼には自分が許せないぐらいの大きな失態であったのでしょう。私は「残念だったね。あの腕時計、生まれた場所に帰ってしまったのよ」と声をかけていました。なぜかイラッとしてしまい、彼を視界から外しました。

電車の車窓から見える景色が霞み、まるで切り取ったセピア色写真のように、悲しむ長男が目の前に現れました。
今振り返れば、あの時は失くしてしまった長男への怒り、失望、落ち込む長男を見たくない気持ち、子供の思いに共感するにはどうしたらいいか…といった様々な感情が渦巻いていて、あれが私には精一杯の声かけだったのです。

〜あの時もっと違う声かけができたんじゃないかな〜

落ち込む長男にもっと寄り添い、「子どもの頃、ママも大切な物をなくしたことあったんだよ…」と、彼の行動を認め、責めずに、それでも結果として間違いや失敗となることがあると伝えられたかもしれません。
しっかり者で通るママのちょっと切ない昔話で彼の心をほぐせたかもしれません。

あの時には後戻りできないし、こんなに時間が経ってしまったけど、こうして振り返り反省する機会となり、私の心の澱は溶け柔らかい気持ちになれました。
つくづく子育ては親(=自分)育てだなぁと、落ちていた腕時計が気付かせてくれました。

あれから3年。長距離走が大好きな長男の腕には新たにスポーツタイプの腕時計があります。陸上部の練習にも大会にも必ず持って行く記録計測器であり、受験生の今は図書館通いのお供となっています。うっかり身に着けていくのを忘れても手元にある錯覚を持ってしまうほど、身体の一部になっています。

いつの間にか、職場に着いていました。あの駅前に落ちていた腕時計、願わくば持ち主の手元に帰りますように。
次は森屋さんですね。どんな年末年始をお過ごしでしょうか。

埼玉県/田中揚子 







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