ハートフルコーチの泣き笑い日記

日々の発見やつぶやきなど。

たかが長髪されど長髪


大阪の田中です。
小林さんの福山さんへの愛が、世代を問わずたくさんの人に拡散されている様子に眩しさを感じました。

今回は保育園の年長から髪を伸ばし続けている息子のことを書きたいと思います。
以前のブログに書きましたが、息子が年長のころ、「前髪だけ伸ばしたい」と言い出しました。私は葛藤の末、“前髪は切るべき”にとらわれていた自分を手放しました。それから息子は床屋に行くことがなくなり、前髪だけにとどまらず髪全体を伸ばし続けました。今はポニーテールにすると、長さが40センチはあるほどに伸びています。

そんな息子は現在小学校6年生。兄の影響もあってか中学受験をすることを決めました。
受験をしようかなと言い出したのは5年生の終わり。もう6年生になろうかという時でした。中学受験を目指す人は小学校4年ごろから動き始めることが多いので、相当ゆっくりなスタートです。
受験を決めた当初は、出願時に髪を切ると言っていました。けれどしばらくして、「やっぱり切らなあかんかなぁ」と言い出したのです。

第一志望の学校は、中高一貫の共学校。校則では男子は短髪となっています。学校案内を見て、「女子は髪が短くても長くてもよくて、男子はあかんのかなぁ。」と息子。制服も、女子はスカート、キュロット、長ズボンと選べるのに対して、「男子はズボンだけやねんなぁ。別にスカートが履きたいわけちゃうけどー」などと言いながら、パラパラとページをめくっていました。その姿を見ながら、それでなくても遅いスタートなのに、今さらまた髪型のこと言い出してどうするつもりやろう?と怒りにも近い感情が湧いてきていました。

受験が近づくにつれ、息子のなかで、できれば髪を切りたくないという気持ちが強くなってきたようでした。息子との話しの中で、長髪でも校則に触れない学校を探すということなどを提案してみましたが、志望校は変えたくないといいます。

そんなある日、通っている塾で学校説明会が企画されました。説明会の後、希望者は学校関係者の方に質問ができる時間があるとのこと。息子の志望校の方も説明会に来るということでした。それを知って、息子は、学校関係者の人に髪の毛伸ばしたままでいいか聞いてみる、と言いました。
個人に与えられる質問時間は15分間です。その間に気持ちが伝えられるように、息子は、7年間伸ばし続けてきて長髪がもはや自分の一部みたいな感じがすること、もし合格できた場合女子同様に髪の毛を括って通学する意思があることなどを文章にまとめていました。

そして迎えた当日。緊張の面持ちで、名前を告げるのも忘れ、「今、僕は髪の毛を伸ばしているんですが、願書を出す時もこのままでいいですか?」と蚊の鳴くような声で質問しました。それに対して「もちろん構いません。ただ、合格した後には校則に従ってもらいます」と返答がありました。息子は自分のこの一言をきっかけに気持ちを伝えたいと考えていたようですが、返答をもらって固まってしまいました。私は横で座っていて、まさにチーンと終了の音が聞こえるかと思ったほどです。

しばしの沈黙の後、学校関係者の方から、「なぜ伸ばしてるんですか? ヘアドネーションとか考えてる?」と聞かれました。すぐには答えない息子を見て「今、中学部で男子生徒からヘアドネーションしたいから伸ばしたいと申し出があって、それについてはOKをだしました。ただ、どこまで伸ばすか、いつ切るかなども申告してもらって伸ばす期間は決めてもらっています」と続けられました。
それに対して息子は、しばらく考えて、「今まで伸ばしてきたのは、自分が伸ばしたかったからです。ヘアドネーションのことも知っています。でも今まで、髪の毛が必要な人のことを思って伸ばしてきたわけではないから、僕はヘアドネーションできません。」と途切れ途切れに、言葉を探しながら答えました。
私は息子にそんな考えがあることにびっくりしました。横からまじまじと息子の顔を見ました。そして誇らしく思いました。その答えを聞いて学校関係者の方は、「それじゃあ切ってもらうしかないかなー」とおっしゃり、また沈黙の時間が訪れました。

私は、ここまで2人のやりとりを黙って聞いていました。名乗り忘れたこと、声が小さいこと、聞かれたことに対しての反応が遅いことなど、息子に対して気にかかるところは何点もありました。けれど、自分の気持ちを自分の言葉で伝えた息子を見て、そんなものはすべて吹っ飛びました。そして、沈黙をやぶり、残りの質問タイムを、息子がいかに準備をしてここに臨んだかのプレゼンタイムにしてしまいました。ふと我にかえってお礼を言って席を立ち、質問タイムは終了しました。

終わってすぐ息子に、「頑張ったなー!お母さん感動したわ!」と伝えました。息子にはニヤニヤしながら、「お母さん、おんなじ事何回も言うてたなー。」と言われました。
正直私がどんなふうに話したかは自分ではあまり覚えていません。ふと我に返った時に、私の出る幕じゃなかったー! とは思いました。それでも、黙っていられなかったのです。
息子は、髪が長いことがもはやアイデンティティの一部になっていることを自覚し、思いを伝えるためにこの説明会への参加を自分で決めました。そしてどうやって伝えたらいいかを考えながら、文章を何度も書き直していました。私は、彼が彼の意志で今ここにきているということを、まずはわかってもらいたかったのだと思います。

それと、ヘアドネーションへの考えを言葉にしたことへの驚きも、私にプレゼンをさせた要因かもしれません。
ヘアドネーションの話題が家族間であがることもあります。家族それぞれの目線で、思っていることを話す場面もあります。それは日常の中で行われることであって、過ぎていく会話の一部です。息子はそれにとどめず、自分で見聞きして得た情報から、息子なりの考えをしっかりと持っているんだという気づきが、私を喋らせたのではないかと思います。

息子は末っ子で、なんとなくいつまでも幼いという感覚があるのかもしれません。年長の時に前髪だけを伸ばしたいと頑なだった時の、“この子は変わっている”という思い込みがフィルターをかけていたのかもしれません。どちらにせよ、今現在成長している彼の、そのままを見られていなかったのではないかと思いました。
受験本番までちょうどあと2ヶ月。相変わらず髪は長いまま。合格発表を見てから髪の毛は切るのだそうです。
断髪式は盛大に行う予定です。

ではこの辺で羽木さんに襷をお渡しします。

大阪府/田中千世子  






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