ハートフルコーチの泣き笑い日記

日々の発見やつぶやきなど。

子どもと同化する


神奈川の秋岡です。
山本さんの記事を読んで、私も実はどこかで自分の「正しさ」にこだわっているところがあるのかもしれないとドキッとし、少し考えさせられました。
そんなドキドキを持ちつつ、今回は一生忘れられない出来事となった、約4か月前にあった息子の中学受験本番について書いてみます。

東京・神奈川では2月1日から中学受験の試験が一斉に始まります。前日の夜、当の息子はぐっすり寝ていた一方、落ち着いていると自分では思っていた私は全く寝られず、夜中に5回ほど目を覚まし、朝も鳴る前の目覚まし時計のボタンを押す始末。翌日も翌々日も、深い眠りとは程遠い夜をそれから3日過ごしました。

第一志望、第二志望の二校の試験結果がわかるのは、同じ2月3日の午後でした。別の学校の試験を午前中に受けて移動している最中の14時、私は電車で横に座った息子に結果が分かる直前の画面が表示されているスマートフォンを渡しました。「絶対、大丈夫」と心の中で唱えながら横で見守ります。息子が結果ページに遷移するボタンを押したその時、「ダメだった。」と彼の声が漏れました。
ショックでした。でも私よりも、半年間行きたい学校を思い頑張ってきた息子の方が数倍ショックに違いない、そう思って溢れそうな感情をぐっと押さえました。
5分後、息子が言います。「ママ、画面もう一回見せて。まだ諦められないんだ。」その言葉に胸が張り裂けそうになりながらスマートフォンを渡すと、画面を確認した息子はしばらく宙に視線を泳がせていました。そんな息子の横顔眺めていたら、あっという間に1時間弱が過ぎ、目的の駅に到着していました。

電車を降り、今度は第二志望校の結果発表の時間です。ドキドキが止まらない私の横で、平然とした息子はスマートフォンを操作し、画面を見た瞬間息子が「あ、あった!」と声を出しました。合格でした。その瞬間、無意識に息子に抱きつき、人目も憚らず涙を流していました。
「よかったね、本当によかったね」
そこで改めて、1時間の電車の中で何を考えていたのか聞くと、息子は第二志望校の試験については、とても手ごたえがあって合格を確信していたようで、自分はそこに行くんだなと実は気持ちを切り替えていたそうです。
その日の夜、私は何日かぶりにぐっすり眠れました。

息子が小学校に戻った2月5日、私も進学を決めた学校への入学準備を進めていたそんな日の16時過ぎ、見慣れない番号から一本の電話がかかってきました。かけてきた相手は、不合格通知を受け取った第一志望校の校長先生。話の内容はなんと、「繰り上げ合格」でした。
すぐに友達の家に遊びに行っていた息子に電話をかけ、「繰り上げ合格の電話があったよ。すぐに帰ってきて!」と呼び戻します。息子が帰ってくるまでに間に決断の材料を集めようと、彼の思考パターンや学ぶ姿勢に関する特徴を一番知っていた塾の先生に電話をしたりしました。

5分ほどして、友達の家から全速力で走って息子が帰ってきました。テーブルについた息子の正面に座り、私は「どうしたい?」と聞きました。息子は、本当に体から沸き上がってきたような声で、「やっぱり●●(第一志望校の名前)に行きたい」と言いました。その沸き上がってきた息子の心からの声を聞いた時、私は涙が溢れ出し、第二志望校の合格の時を超えて、この受験期間で一番泣きました。
たった5分の間に、息子は走りながらいろんな事を一生懸命考えてきていました。第二志望校に決めてから改めて調べてわかったその学校の沢山の良さ、すでに思い描いていた学校生活。また気が回る彼のことですから、すでにその時点で入学金を親が払い込んでいたことも気にかけていたでしょう。それでも自分の本当の気持ちに向き合い、思い描いてきたことをひっくり返してでも、それでも沸き上がってきた「やっぱり」という言葉が全てを表していました。
「そうだよね。そうしよう、行こう」と、涙で震えた声で私は答えました。

私はこの時、心がすっと晴れると同時に、第一志望校が不合格、第二志望校が合格という結果だった約2日間、自分を納得させるために精一杯その結果を正当化しようとしていた自分がいたことに気がついたのです。第二志望校に関して良いと思われるあらゆる情報を集めて息子に伝え、息子への言葉を反射させるように自分に向けて納得させるようにしていたのです。

ここからもう1つ、それまで意識していなかったことに気づきました。私は、自分が思っていた以上に、子どもの経験と気持ちに入り込んでいたのです。
ハートフルコミュニケーションでは、子どもの問題は親の問題ではないのだから、子どもが自分で乗
り越えて解決できるように親はサポートしながら見守ることを提唱していますし、自分なりにそれを実践して受験に至るまでの期間も過ごしてきたつもりでした。しかしこの時、私は完全に息子の問題を自分の問題にしてその瞬間瞬間に入り込んでいましたし、むしろ息子の経験を彼以上に自分のものにしてしまっていたのかもしれません。
2月3日の午後、電車の中で第二志望校に行くんだと前向きに気持ちを切り替えていた息子の横で、諦めきれずに気持ちの整理を必死にしようとしていたのは私の方でした。

まだまだ問題の区別化ができていなくて親としての修行が必要だなと思った一方、だけど、こうして経験と自分の気持ちを子ども同化できる経験というのはとても貴重なことだなとも、実は思っていました。
ちょうど息子の試験を待っている間に読んでいた小説『そして、バトンは渡された』(瀬尾まいこ著)に出てきて涙が溢れた一節で、「親になってから明日が二つになった」「自分の明日と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日が、やってくる」「親になるって未来が二倍以上になることだ」という表現があり、まさにこの言葉を自分の身で感じられたのはとても素敵なことではないかと強く感じたのです。こんなかけがえのない経験を私の人生に刻んでくれた息子に、感謝のような気持ちさえ生まれました。

4月から念願の第一志望校に通い始めた息子は充実した生活を送りつつ、先日初めての中間試験を迎えていました。中間試験に臨むのは彼の問題。試験内容や勉強の進行など、私から根掘り葉掘り聞くことはなく、帰宅の時間のみ把握して過ごすようにしています。

神奈川県/秋岡美奈子  










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