ハートフルコーチの泣き笑い日記

日々の発見やつぶやきなど。

それぞれの立場で


大阪府の安村です。
秋岡さんが、お子さんのことをよく観察し、理解した上で信頼し、決断を待たれたことは、お子さんの母に対する信頼にもつながっているのではないかと感じました。自身を振り返ると待てないこともあったと反省もありです・・・・。
 
今回は、云十年前の大学の寮生活で、一番、心に残っている出来事について書きたいと思います。

入寮当時、一部屋10畳に4人の共同生活でした。
3年生1人、2年生1人、1年生が私ともう1人。部屋は、ドアを開けて真ん中に通路、両サイドに二段ベッドと各自の荷物置きのスペース、その向こうに、両側に壁向きで二人が隣り合って座る備え付けの机という構造でした。
プライベート空間は、カーテンで仕切ったベッド一畳とその奥の半畳の荷物置きのスペースのみ。
寮に入って直ぐの頃は2年生の先輩が、新入生の私たちに色々と教えてくださいました。お陰で、寮生活への不安も随分軽くなったと思います。
 
寮にも慣れた、夏休み前の定期テストの期間中。
教科書とにらめっこしながら、ひたすらノートに理解すべきこと、覚えることを書き写していきました。(勉強をする時に、目で見るだけで内容が頭に入る人もいれば、書かないと頭に入って来ない人もいます。私は、書かないと駄目なタイプ。)
隣で勉強していた2年生の先輩が、立ち上がって部屋から出て行かれることが何度かありましたが、息抜きかなあ・・と思うくらいで、私は、自分の勉強に集中していました。
 
試験期間が半分くらい過ぎた時、3年の先輩から話があると言われたのです。
2年生の先輩が私の鉛筆の音が気になって勉強に集中できないと言っているから、気を遣ってもらえないかということでした。
辛うじて「分かりました。」と、答えたものの、書かないと覚えられないのに、書いてはダメと言われたようなもの・・・。どうやって、これからの試験を乗り切ったらいいのだろうか。4年間、どう勉強していったらいいのだろうか。途方に暮れるのと、思いもしなかったことで注意をされて悲しいのとで、落ち込みました。でも、落ち込んでいる様子をみせるのは先輩にいじめられたと思っていると思われそうだから避けたいし、言われて落ち込む自分の弱さをみられるのも嫌で、極力平静を装っていました。隠しきれてはいなかったと思いますが・・・。
その状況で、先輩の横で勉強を続けることは出来なくて、ベッドに折り畳みテーブルとスタンドを持ち込んで、残りの試験期間を乗り切りました。
 
平静を装っていても実は、気まずくて、これからどんな顔をしてこの部屋で過ごしていけばいいのか分からない。
誰かに相談したいけど、寮の友達に相談したら、先輩の悪口を言っているように思われて、気まずい関係がますます悪化してしまうかもしれないと思い、友達に相談することは出来ませんでした。
かといって、どうしたらいいのかが、全く思い浮かばず・・・。
心配をかけてしまうとは思いながらも、母に電話で現状を話して、どうしたらいいと思うかと相談したのです。母も直ぐには答えられないから、少し考えてから連絡すると言われました。後から考えると、解決策が見つかる、見つからないに関わらず、相談できる親の存在は支えになっていたように思います。
数日後の電話で、母も答えが見つからず知り合いに相談したら、夏休みの帰省の前に、それぞれの先輩にお礼を言いなさいというアドバイスをもらったと。
 
確かに、私の立場からしたら、注意をされてしんどかったかもしれないけれど、逆の立場で考えてみてと教えられました。
先輩も自分の勉強が出来なくて困って已むに已まれず言ったのではないのか?
先輩だって言いにくかったはず。陰口ではなく、直接伝えてもらったことはむしろ、有難いことだと思う。だから、「言いにくいことを言って下さって有難うございました。私は、気がつかないことが多いので、これからも何か気になることがあったら、教えてください。」と先輩に伝えてから帰省しなさい。そう伝えることで、何か気になることがあれば、先輩も言いやすくなるし、関係が悪化することもないと思うというアドバイスでした。
 
確かに、私は自分のしんどさでいっぱい、いっぱいで、先輩の立場では見ることは出来ていませんでしたし、思いつきもしませんでした。
その状況に対して、自分に出来ることがあると思えたことで、少し冷静になることが出来ました。
冷静になって先輩の立場でと思った時、席を立って出て行かれていた様子が頭に浮かんだのです。
先輩もしんどかったのだということが、私にも理解できました。
 
何となく関係が拗れたように思えて、言いにくさはありましたが、帰省で寮を後にする前に教えてもらったように伝えたのです。
3年の先輩はどちらの立場も理解しているという様子で、「まあ、あまり気にしないで。」と言ってくださいました。
2年の先輩に声をかけた時、一瞬、表情がこわばったように思えて、内心ドキドキしましたが、言わなくては!と、勇気を出して、伝えました。
先輩の表情に、有難うございますに対する驚きと分かってもらえたという安堵が伺えたように感じました。(実際のところは、分かりませんが・・。)
和らいだ表情になった先輩に、夏休み明けからまたよろしくお願いします。と告げ、スッキリした気持ちで帰省することが出来たのです。
 
夏休み明け、気持ちの上でのわだかまりはありませんでしたが、私の鉛筆の音が気になる。という問題が解決した訳ではありません。なので、私なりに出来る努力をしました。やたら書きまくっていたのを、内容をじっくり理解しながら書くように心がけ、鉛筆の音を減らしました。勉強の時間もなるべく重ならないようにしたり、重なって気になりそうならベッドで勉強したりと。その内に、先輩から、一緒に机に並ぶ時間が短くて済むように、朝型と夜型で別れようとの提案がありました。それで、私は、朝型に。 お互いに相手を尊重して折り合いのつくところを探していったのです。
その結果、この出来事の後、その先輩とは以前より仲良くなりました。
年度替わりでの部屋のメンバー決めの時に、もう一年、同室になりましょうと言って貰えるくらいに。
 
私にとって、貴重な経験でした。この体験が活きたのかもしれないと思ったことがあります。息子と友達数人が家の前でボール遊びをしていて、私が帰宅した時のこと。
向かいのご主人が、「ちょっといいですか。」と声を掛けて来られました。話は、子どものボールが車に当たるので、ここでの遊びを止めさせて欲しいということ。車に傷がつくような硬いボールで遊んでいたわけではないけれど、確かに自分の車にボールが当たるのは嫌だろうと思いました。「そうでしたか。気が付かなくて済みませんでした。また、子どものことで、それ以外でも、気になることがあれば教えてください。」という言葉が直ぐに出てきました。今もご主人とは笑顔で挨拶をかわしています。
いつもできている訳ではありませんが、自分にとって嫌なこと、耳の痛いことを言われた時こそ、相手の立場で考え、相手を尊重するということを、これからも心掛けていきたいと思っています。
 
この辺りで、岩田さんにバトンを繋ぎます。

大阪府/安村典子 





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