ハートフルコーチの泣き笑い日記

日々の発見やつぶやきなど。

子どもが描く人生のシナリオ


日々の生活の中で、自然に生まれる感情に気づき、言葉にする。その感情を受け止め、向き合い、伝える。そうすることで、自分とも、関わる人たちとも、よりよい関係を築いてゆくことができる。そんな真摯でしなやかな私でありたい、と瀧澤さんの日記から感じました。

千葉の鈴木です。
夫の仕事に伴う2回目のインドネシア駐在の準備のため、10歳の息子を連れて6年振りにジャカルタへ行ってきました。今回5日間の滞在中のミッションは息子の学校を決めることと、住む家を決めること。短期決戦、達成なるか!?とハラハラドキドキの滞在でした。

さて、仕事柄、海外と日本を行ったり来たりの我が家ですが、毎回、まずは何はともあれ息子の学校選び。その学校から徒歩圏内のアパートを探す、というのが我が家の定石です。
今までは息子も幼稚園や小学校低学年だったため、学校選びは親の仕事でした。情報を集め、学校を見て、校長先生と会い、私達が大切にしていること、そして息子の特性を伝え、この先生に息子を任せたい!と思えた時が学校の決まる時でした。

しかしこの度は息子も10歳。彼に学校を選ばせよう、というのが私達夫婦の方針となりました。
とは言え、我が家の財政事情と夫の仕事の都合もあるため、まずは通学可能な学校の中から教育内容や学校の規模、生徒の国籍に出来るだけ多様性をもたせ、インドネシア現地校から、インターナショナルスクール、日本人学校に至るまで5校を選択。その後、息子と一緒に学校見学に行き、本人が体験授業を受けて、行きたい学校を選ぶことにしました。

結果、息子が選んだのは幼稚園から中学までの全校生徒100人ちょっとという、市街地にありながらも落ち着いた環境に小さくたたずむニュージーランドの学校。
実はこの学校、親としては、選択肢に多様性をもたせるため、言ってみれば本命を本命たらしめるために提案した学校で、実際に通うことはほとんど想定外でした。息子に、「今回のあなたのミッションは行きたい学校を自分で選ぶことだよ。」と言っておきながら、彼の意外な選択に私は突如、本当に大丈夫なのかしら?と不安に襲われます。

というのもこの学校、まずは先生の授業がありません。その日のテーマに基づいて、それぞれの子どもたちは自分にとっての「なぜ?」を発見するところから始まります。これで生徒はどうやって読み書き、計算、基礎的な知識やスキルを習得するのだろうか?
小規模な学校のため、2学年が一緒に学びます。どうやって学習レベルを保つことができるのだろうか?
テストもありません。どうやって習熟度を測るのだろうか?
宿題はなく、家では子どもをゆっくり休ませて下さいとのこと。このゆるさで子どもは将来にわたって学び、好きなことを仕事にし、生活していくための学力をつけることができるのだろうか?
それもこの学校、ジャカルタの他のインターを退学になった問題児たちを受け入れる最後の砦とのこと。勉強どころではないのでは?
様々な疑問が私の中に沸き起こります。

ただ、体験を終えて目の前にいる息子に迷いはなく、頭の中をフル回転させたまま、それはもう楽しそうにその日にあったことを私に話してくれます。その様子を見れば、彼の一日が充実したものであったことは明らかだし、友達や先生との関係も良好であったことには疑いの余地もありません。でも、本当に学校で勉強してきてくれるのだろうか?

その点、息子に聞いてみると、彼曰く、「先生がみんなに対して一斉に教えるというスタイルだと、学べる幅が狭いんだ。決められたことしか勉強できないんだよ。僕はもっとこんなことを知りたいし、もっとこんなふうにもできると思うのに、それができないんだ。でも、この学校だと何をどんなふうに学んでもいいから、学べる幅が広がって楽しいんだよ!」とのこと。体験を終えた彼の生き生きとした様子は、彼の知的好奇心や探求心がよどみなく満たされていったせいだったのか、と合点がいきました。

とは言え、小学生のうちから個人の関心、強みや弱み、固有の社会的、文化的な価値観や世界観の強く反映された、子どもの「なぜ?」に基づく学習では、彼の学力は偏ったものになるのでは?という私の不安はぬぐいきれません。
親の私は小学生の時から塾に行き、学校のテストは100点をとるのが当たりまえ。高校では国公立受験の生徒のためのクラスが設置され、受験教科の絞られた私立よりも5教科受験の国公立の方がレベルが高いという雰囲気がありました。そして、世の中で良いとされているものを自分にとっての良いもの、すなわち自分の目標、としがちな私は迷わず国立を志望校に定め、志望校合格を目標にどれだけ効率よく全ての教科で高得点をとるか、ということが勉強だと思ってきました。また、日本で育ち、日本でしか仕事をしたことがない私は、日常会話レベル以上の、学習言語としての日本語、ビジネスが出来るレベルの日本語をキープすることは、日本人として外せないと信じてきました。
息子の選んだニュージーランドスクールは、そういった私が正しいと信じて努力してきたこと、その過程で培われてきた価値観をぐらぐらと揺るがし、心の不安を刺激するのでした。

でも目の前の息子はそんな私の不安はおかまいなしに、もうここの学校の生徒、といういでたちで先生にも友達にも1月に戻って来るね!と宣言しています。
さすがの私も、こんなに喜々としている息子に、今更他の学校に行けなどと言えるわけがありません。
彼は既に自分の問題を自分で解決し、選択している。そして、今までになく楽しそうで、主体的に動くことを喜んでいる。
あとは、私が私の問題を解決し、納得するだけだ、と腹をくくりました。

そこで、失礼とは思いながらも、先生には学校の規模やカリキュラムに対する私の不安を全てさらけ出し、学校のホームページも隅から隅まで読み直し、ニュージーランドの教育内容について調べるとともに、私自身の持つバイアスを知るために、私が受けてきた日本の教育についても調べていきました。
その結果、私はやっと自分が何に囚われ、何を不安に思っていたのかを理解することができ、息子の選択に任せる決心がつきました。私は「日本人」であることを自身のアイデンティティーの拠り所とし、息子が偏差値の高い大学に代表される社会のエリートと言われるカテゴリーに入ることは、とりもなおさず私に安心をもたらしてくれるものだったことに気づきました。
息子は私とは時代も場所も異なる環境で生きているにもかかわらず、私は、私の限られた経験に基づく価値観と世界観の中で子育てしていくことで安心感を得ようとしていたのです。でも今(時代だったり、場所だったり、その子の特性だったり)を生きる子どもは私の思う不安なんて、これっぽっちも持っていないし、私の思い描く世界には生きていない。それどころか、そんな世界はとうに飛び越えた世界を生きているのかもしれない。子どもは自分にとって必要なものが何かわかっていて、親が手だし口出しをしなければ、案外自分にとってベストな選択をしていくのかもしれない。子どもは、彼らなりの世界を見る目と自分を見る目を持っている(自分が好きなことは何か、何に興味があるのか、自分の強みは何か、弱みは何かを知っている)。そもそも、選択自体にこれがベストなどというものはなく、本人が自分で選び、その結果を自分で体験する、ということこそが彼にとって今一番大切なことなのだろうと思うようになりました。

成田空港に着いてから我が家への帰り道。早く家に帰ってマインクラフト(ゲーム)をやりたい!と大きなスーツケース2つを両手で押し、小走りしている息子の後ろ姿を見ながら、夫と私は、「たくましくなったね。」と嬉しい気持ちで微笑んでいました。
私は息子のポジティブなエネルギーに後押しされて、異なる価値観に身を任せ、今までのやり方を変えてみる勇気と柔軟性をもらっていると感じ、彼に対して、息子というよりも、同志という感覚を覚えました。現金なもので、子どもの選択をいったん受け入れてみると、今度は私自身も新たな世界を目の前に、自分の中にどんな変化が起こるのかワクワクしています。

さあ、ここからは私には未知の世界。我が子の安全基地でありながらも、その観察者であり、時に伴走者である私でしかいられなくなる。ここにきてやっと、息子がどんなふうに成長していくのか、主人公が私ではなくなった映画を見ているような気持ちになっています。
当たり前のことではあるけれど、当たり前のことができていなかった、「子どもの人生のシナリオを描くのは子ども本人」という事実。
私は、大好きな息子がこれから自分自身でどんなストーリーを紡いでいくのかワクワク、時にハラハラ、ドキドキしながら、彼の人生をVIP席で見せてもらっている観客のような気持ちでいます。失敗あり、成功あり、葛藤あり、再生あり、の完ぺきではない人間のドラマだからこそ面白いし、人の心が動き、仲間が増えていく。
この度の息子の成長と私の気づきは、そんなことを実感させてくれるものでした。

それではこの辺りで、石垣さんにバトンをお渡しします。

千葉/鈴木真理恵

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日記の筆者に聞きたいことを訊き、話したくなったことを話して、お子さんとの良好な関係のために活かせるものを、たっぷりお持ち帰りください。




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2023年11月06日(月) No.645 (日記)

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